落語 粗忽の釘(そこつのくぎ)あらすじ

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大工の亭主が引っ越し先でやらかします。「釘を打つのは朝飯前」のはずが、薄い長屋の壁にとんでもなく長い釘を打ち込んでしまい、隣の家に謝りに行くことになります。ところがこの亭主、謝りに行ったはずが向かいの家に入り、さらには謝る用件さえ忘れてしまって……。

「粗忽の釘(そこつのくぎ)」は、抜けた亭主と苦労する女房の掛け合いが楽しい滑稽噺の定番です。随所に笑いがちりばめられ、二つ目の落語家さんも高座にかけるほどわかりやすく、落語の入門にもおすすめの一席です。

この記事でわかること

  1. 粗忽の釘のあらすじ
  2. 見どころ:粗忽な亭主の3つのやらかし
  3. オチのポイント
  4. 実際に聴いた感想(新宿末廣亭)

粗忽の釘のあらすじ

引っ越し初日からやらかす亭主

引っ越し当日、家財道具を一式担いで先に出発した亭主。ところが後から出発した女房の方が先に新居へ到着し、荷物の整理まで済ませてしまいます。夕方になってやっと亭主が到着すると、女房はカンカンです。

「どうして先に出たあなたが後から来るんだい!」と問い詰めると、亭主の答えは呆れたもので、「途中ですったもんだがあって、自分が引っ越しをしていることをすっかり忘れてしまった」というのです。

怒る気も失せた女房は、残りの荷物は明日片付けることにして、せめて箒(ほうき)を掛けるための釘だけ打ってくれと頼みます。

長い釘を薄い壁に打ち込む

この粗忽な亭主、職業はなんと大工です。釘を打つことは朝飯前のはずなのに、女房にあれこれ指図されて腹を立て、とんでもなく長い釘を力任せに打ち込んでしまいました。

しかも打ち込んだ場所が柱ではなく壁です。長屋の壁は薄くできているので、隣の物音が筒抜けなのは当たり前。ましてや釘を打ったとあっては話が違います。

それを見た女房は青ざめました。きっと釘の先が隣の家まで突き抜けていて、家財道具に傷でもつけていないか心配でなりません。

「今すぐ隣へ行って様子を見てきておくれ。ちゃんと丁寧にお詫びをするんだよ」と、きつく言いつけて亭主を送り出します。

向かいの家に入ってしまう

「なんでぃちくしょうめ」と文句を言いながら出かけた亭主、謝りに行った先はなんと隣の家ではなく向かいの家です。

とりあえず引っ越してきたことと、壁に釘を打ったことを説明すると、向かいの住人から一言。

「いくら何でも、通りの向かいの家から打った釘がこっちまで来るわけがないだろう」

そこでやっと向かいの家に来てしまったことに気づいた亭主、慌てて女房のもとへ戻って事の顛末を報告します。女房は頭を抱えながら、もう一度今度こそ隣の家へ謝りに行くよう言いつけます。

「とにかく落ち着いて。あなたは落ち着いていれば一人前なんだから」

謝る用件を忘れてしまう

隣の家に着いた亭主、女房の言葉を思い出してなんとか落ち着こうと煙草を取り出します。隣家の主人は、いったいこの人がどこの誰かもわからないまま、煙草盆を出して座布団を勧めて、とりあえず話を聞くことにします。

ところが、肝心の釘の話がいっこうに出てきません。なぜかお互いの夫婦のなれそめなどを延々と話し続け、しびれを切らした隣家の主人がついに聞きます。

「いったい、何のご用でしょうか」

そこでやっと思い出した亭主、釘の話を切り出します。隣家の主人が「どのあたりに打ったんですかね」と家の中を確認したところ、釘が見つかりました。

しかしその場所がとんでもないところで……。

オチのポイント

オチの一言(ここから先はネタバレあり)

  • 釘が刺さっていた場所は、仏壇の阿弥陀様(あみださま)の頭の上
  • 「阿弥陀様の上に? ほぉ、お宅はここに箒を掛けるんですか?」

女房に「箒を掛けるために釘を打て」と言われて打った亭主の釘が、よりによって阿弥陀様の頭の上に刺さっていたというオチです。隣家の主人の「ここに箒を掛けるんですか?」という一言がすっと落ちてきます。

見どころ:粗忽な亭主の3つのやらかし

亭主のやらかしを整理するとこうなる

  • ① 引っ越し中に自分が引っ越ししていることを忘れて遅刻する
  • ② 謝りに行ったのに向かいの家に入ってしまう
  • ③ 謝りに行ったのに用件を忘れて夫婦のなれそめを話し続ける

3段階で積み上がっていく粗忽ぶりが笑いを誘います。「そんなやつはいない」と思いながらも、噺を聴いているうちにすっかり亭主の世界に引き込まれるのが落語の不思議なところです。

現代ではワンルームのアパートの壁が薄くても隣に誰が住んでいるかわからないことが多いですが、落語の長屋の世界では隣近所の事情が筒抜けです。その濃い人間関係の中で亭主の粗忽さが際立ちます。

実際に聴いた感想:新宿末廣亭

この「粗忽の釘」を聴いたのは新宿末廣亭です。古今亭菊志ん(ここんてい きくしん)師匠が高座にかけていました。

寄席で聴く落語は、その場の雰囲気に合わせてサゲが変わったり、噺の内容がアレンジされていたりします。「粗忽の釘」もまくらの内容や高座の時間によって多少噺が変わります。

江戸時代が原作とされるこの噺ですが、明治・大正時代のバージョンでは亭主が引っ越しの荷物を担いでいるときに自転車にぶつかるくだりが加わることもあります。またサゲも今回紹介したものより続きがあり、「酒を飲むと我を忘れます」と続くバージョンも存在します。

同じ演目でも落語家さんによってどう変わるか、聴き比べてみるのも粗忽の釘の楽しみ方のひとつです。

ぜひ一度、寄席に足を運んで生の「粗忽の釘」を楽しんでみてください。お勧めはもちろん新宿末廣亭です。

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