落語と二人の俳優

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落語を生で聞くなら寄席や各地域のホールでの公演が一般的です。

寄席なら落語以外に色物と呼ばれる漫才や音曲や神楽も楽しめます。
またホールで行われる落語は独演会や二人会などで落語を聞くことが出来ます。

そんな中、とても有名な俳優さんが落語をするという事で聞いてみることにしました。

それこそベテランの俳優さんですから、どんな感じになるのかとても楽しみでした。

目次

俳優ラサール石井さんが噺家になる

一人目は「ラサール石井」さんです。
ラサール石井さんは大阪府出身。渡辺正行さん小宮孝泰とコント赤信号を結成。 フジテレビの「俺たちひょうきん族」に出演し人気を博していました。

現在は、俳優と舞台の演出・脚本やコメンテーターなどの多彩な才能を発揮しています。

これだけ精力的に活動されているラサール石井さんが新たに落語に挑戦。

早速ですが、ラサールさんの落語を聞いた感想ですが、 あれだけのベテランでも高座で緊張するという事。
同じ舞台とはいえ、演劇と落語ではこれほどまでに違うのかというくらい緊張されていました。

とは言え、前座修行をしたわけでもありませんが、 キャリアの浅い若手の落語家さんとは違いがありました。

まず、若手の落語家さんは、覚えた落語を一語一句間違わずに話す。
そんな姿をよくみます。 間合いなども一本調子で芸歴の浅さを感じる時もあります。

ラサール石井さんの落語が上手いかと言えば、お世辞にも上手いとは言えません。 しかし、話し方や客席との間合いは絶妙でした。

演劇なら舞台と客席に見えないラインがあって、舞台上で演じている演者を客席から見る感じですが、 落語などの演芸はラインがあやふやです。
見えないラインがあるようでないような。
そのラインを巧みに踏み越えたりしながら、観客を引き込む落語でした。

舞台なら動きながら台詞を言い、相手役もいるし身振り手振りで表現するので客席で見ている方は登場人物を想像しなくてもすみます。

でも、落語は座布団の上で一人が何役も演じ分けながら、客席はその登場人物や背景が想像できるように話します。ここが本職の落語家さんとの違いであり、とても大きな差だと感じました。

これからも機会があれば落語をするそうなので次回も楽しみです。

ラサール石井さんと柳家喬太郎さんの二人会

ラサール石井さんと二人会をしたのは柳家喬太郎さん。

チケットがなかなか取れない人気の噺家さんの一人です。

柳家喬太郎さんは古典落語だけじゃなく新作落語も精力的に手掛けています。
新作落語が舞台になって主演を務めたりもしています。

やはり落語と違い、動きながら台詞を言うのが難しいと仰ってました。

今回ラサール石井さんが古典落語の「鹿政談」、柳家喬太郎さんは新作落語の「ふくろうの夜」「拾い犬」。

柳家喬太郎さんの「拾い犬」は古典落語のような設定でとても秀逸な作品でした。
大まかなあらすじですが、貧乏長屋の子供二人が白い子犬を拾って飼おうとしたが、人間ですら食うに困った状況で犬は飼えないと母親に言われる。
そこで大家に相談すると、ここじゃ飼えないから裕福な家で飼ってもらおうと商家で飼ってもらうことに。

子供の一人がこの商家で働くこととなり、やがて大人になる。
まじめな仕事ぶりで主人からの信頼も厚く、娘との結婚も打診される。

もう一人の子供は悪さをして生きてきた。
そして成長した若者は、娘をさらい遊郭に売り飛ばして金を分けようと持ち掛けられる。

断るが刃物で脅されたが、あの時の白い犬が袖を噛んだりして止めに入り諦めて去っていった。 この一部始終を娘が見ており、この若者と結婚することになった。

それでも悪くなってしまった昔の友を案じる若者を、娘は「去る者(サル)は追わずよ」 で、若者は「道理で白犬とは犬猿の仲で」とサゲで終わる。

時代背景などから古典落語のようですがこちらは見事に新作落語です。
ものすごく秀逸な作品だと思います。

風間杜夫さんと柳家花緑さんの二人会

二人目は「風間杜夫」さんです。
50代以上なら知らない方はいないと思います。一躍有名になったのは、映画「蒲田行進曲」。
映画や舞台、テレビドラマで活躍されている70歳とは思えないほど精力的に活動されています。

当日は体調が悪かったせいか、喋るのが辛そうでしたが、ベテランの噺家さんのような間合いでした。
まくらから本題の落語に入るまでの流れは、本物の噺家さんのようでした。

トークショーで、風間さんが言っていた一言がとても印象的でした。
「噺家を演じている」という一言。
風間杜夫にとって、演劇で役を演じるように「噺家を演じる」と。

一番前の席で見たのですが、演じているようには見えません。
もうベテランの噺家さんのような立ち振る舞いです。
既に高座に掛けられるネタは12本程度あるとのこと。

今回、風間杜夫さんは「居残り佐平治」をやりたかったが時間の都合で「粗忽長屋」をやりました。

登場人物の八っあん熊さんのそそっかしい素振りを演じるのは簡単ようで、実は非常に難しい。なぜなら、自分が死んでいると言われて。それを確かめて納得するが引っかかるところもある。

ただただおっちょこちょい言うだけでは済まされない噺です。それほど登場人物が多いわけではない分、納得できるように工夫が必要ではないでしょうか。

その噺を見事に演じている風間杜夫さんに脱帽です。今度は「居残り佐平治」を見てみたいです。

この日の二人会の相手は柳家花緑さんです。最近では発達障害だとカミングアウトされてもなお活動の場を広げ、ますます精力的に活動されています。

今回は古典落語の「妾馬」でした。以前、山田洋二監督に「まるで寅とさくらのようだ」と評された噺。

冒頭で噺の背景などを分かりやすく説明してくれるので、初めての人でも親しみやすく優しさが感じられました。

とある殿様が長屋の前を通りかかったときに見初めたお鶴を側室に迎えました。世継ぎが居なかったが、お鶴が男の子を出産する。

お鶴の計らいで兄の八五郎が屋敷に呼ばれる。喜び勇んで屋敷に出向き、三太夫や殿様とやり取りをするが、そもそも下心があってお祝いのお金を貰えると目論んでいた。

三太夫やお殿様とやり取りをしているうちに、妹のお鶴のことを大事にしてほしい、末永くかわいがってほしいとお願いをする。

そんなしんみりした場面で、お鶴も同席していることに気が付き、景気づけに都都逸を披露し、お殿様にも都都逸を指南する。

そんな兄を気にいったお殿様は、兄を侍に取り立てます。「まさに鶴の一声」です。

今回は、兄が妹のお鶴を思う気持ちをお殿さまに伝える場面は、涙が出るほどの感動を与えてくれました。実際に周りの方もハンカチで目頭を押さえていました。

落語で涙したのは初めてですが、これは花緑さんの技量だと思います。

さすがに、風間杜夫さんもここまでは演じることは無理だと思える内容です。

やはり、落語は奥が深い話芸だと実感した二人会でした。

これからも様々なジャンルの方が落語に挑戦して落語の魅力を広めてほしい企画です。

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